「これでよし」
「……綺麗。これなら、ココも安心して天国に行けるわ」
太陽は、もう昇りはじめている。あと数時間もすれば、真昼になるだろう。
出来上がった墓の前、ポポは空を見ていた。
突き抜けている、真っ青な空。雲などない。
少し冷たい春風が、小さな羽根を一つ、舞いあげた。
「ココちゃん…やっぱり、生きていたいよね」
遠い誰かに、話しかける。まるで返事のように、春風がまた一つ吹く。
と、冷えた肌に温かい手が触れた。
「ポポ、もういいのよ。死神様も言っていたでしょう。運命だったのよ」
「そうだよ、ポポ。お前はお前の未来を歩いていけばいいんだ」
「お父さん、お母さん……」
そっか。そうだよね。ココちゃんが生きられない分、私が生きなくちゃ。
でもね。
「さあ、帰りましょう」
三人は翼を広げた。が、ポポはすぐに閉じた。
空中から、セフィアが問う。
「ポポ?どうしたの?」
「あ……私は、もうちょっとここにいるから」
「そう?遅くならないうちに帰るのよ」
「気を付けてな、ポポ」
二人は、春風に乗って家へと帰って行った。
二人の羽が、一枚ずつポポの前に落ちる。
ポポは、手を振った。大きく、大きく。
もう、二度と会うこともないだろう、両親に。
ポポは足もとの羽を拾って、ぎゅっと胸に抱きしめた。
そして、墓の前で座り、目を閉じた。
死神様、聞こえますか。私です、ポポです。
答えをいいます。どうか、もう一度私の前に現われてください。
死神様―。

「やっほーって暑いなー、昼間は」
相変わらず無邪気な声で言う。死神だというのを疑いそうになる。
だがその手の中にある白銀の鎌は、少年が確かに死神であることを見せつけていた。
「で、どうするの?」
「はい」
ポポは、精一杯、ココにも聞こえるように言った。


「私の命を、ココちゃんにあげてください」


春風が、また一つ。
「―そうか。わかった」
少年は、白銀の鎌を振り上げた。
嫌なんだよね。死んでもないやつ殺すの。それも女の子をさ。
ほんとなんで……。
人は、こんなに強いんだ?何で誰かのために命を捨てられるんだ?



「捨てるんじゃないよ、死神様」
「!」
こいつ…俺が考えてたことを読んだ?
「あげるの。大切で大好きな人に、プレゼントするの」
ポポは、目を瞑っていた。閉ざされた瞳から、涙が流れている。
「死神様がいってた”いい答え”って、私が諦めることだったんだよね。そうすれば、私を、生きている命を奪わずに済む。死神様、優しいんだよね」
気づけば、少年のローブにしがみついていた。
涙が、止まらない。
こいつ…泣くほど怖いくせに、”死にたくない”って言わないな。
昨日はあんなに怖がってたのに…
そんなに、愛って強いものなのかな。
…わかんねーや。俺には。
でも、こいつにはわかるんだろう。
「ははっ、泣くなよ。自分から殺してくれって言っといてさ。俺にも笑ってくれよな」
「え?」
あまりに死神っぽくないセリフに、ポポはきょとんとしてしまう。
少年は、くくっと笑った。
「くっ…なんだよその顔。不細工ったらないぜ。ほら、可愛く笑ってみな」
少年が、ポポの頬に触れる。
温かい。
これが、命なのか。
「えへへ……死神様って、ちょっと変だね」
「なっ、変とはなんだ変とは!俺は立派な死神だぞ!」
「あははっ」
ほら、可愛く笑えるじゃないか。
小さな妖精は、綺麗に笑った。


「じゃあな」
「…うん」
少年は、鎌を振るった。


天国で、会えるかな。






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